クレイン・トータス新聞
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ゆっくりふる里
2026-01-01

明けましておめでとうございます
今年も皆様と共に新しい年を迎えることができました。有難くお歓び申し上げます。又、この目で見ることの叶わない何か大きい力に向って感謝の意を表したいと思います。
爽やかな風
幼い頃からの親友に、歩くことをすすめられて、昨年7月末から子犬クマとの散歩をはじめました。猛暑だった昨年の夏、昼間は何をすることもできず、自分の身体の限界をしらされて、涼しい早朝に動き出しました。甲斐犬のクマには猟犬の血が濃く、運動が必要で散歩をたいへん喜びます。又、息子のお下がりのフットサルシューズが、私の足裏によくフィットして、駆け出したい気持ちになり、この散歩の後押しをしてくれてます。子育てが不十分だった私には、ベクとクマが可愛くて、昔の時間を取り戻しているようです。
朝家を出て県道を400メートル程下ったところを左折すると、道幅は狭まり、見通しの悪い急な下りとなります。下り終えると民家があり、そこからは平坦な直線道になって、右手は管理されていつもきれいな畑、その先には田んぼが続きます。
変形の十字路を左折してすぐ右に入ると、木木の薄暗いトンネル状で、先方に出口のように明るい田んぼが見えます。障害になる物のない水平に広がる田んぼを見渡すと、稲穂を揺する風を受け、それが何とも心地よく、爽やかという言葉しか浮んできません。
小湊鉄道上りで鶴舞駅を出ると間もなく、右手の車窓に開ける田んぼ、その先方の小高い山地の裾に民家が点在し、その当りがクマとベクと通うところです。
田んぼをわたってくる爽やかな風は、この線路の方向からで、背後には集落があり、近くを養老川が流れ、更に後方の山並は、袖ケ浦、木更津方面へと連なり、東京湾に到ります。爽やかな風の出発点は何処の当りだろう……そんなロマンチックな空想に耽たりします。
稲刈り後の田んぼは、早苗の頃とは又違った風景をつくり、毎朝、昨日とは異なって新鮮です。
直線で区切られた1枚1枚の田んぼは、異なる色彩と地肌になってハーモニーを奏で、異質なものが入ることはできません。靄や霧の中、雨や雪の中では美しく編曲され、朝昼晩の3楽章が流れて、夜のとばりにつつまれます。
月夜の景観は別格です。田んぼはベートーベンの田園になって覚醒し、草木と霜で潤んだ空気の中、繊細な微粒子たちがリズミカルに流れます。私は農道に腰を下し、犬と顔を合せて、ピアノソナタ「月光」第3楽章を聴くのです。
青い穂を揺らして私の耳元を通った風は、古代の農夫たちの頬を撫でて、爽やかな気分にしてくれた風でしょう。永く引き継がれてきた稲作文化を、この風も一緒に伝えているんですね。
小湊観光バス
爽やかな風は、恒例の1泊旅行でも吹いていました。職員は統合以前から統合しており、バスの出発を待っていたかのように、後部座席から一献がはじまります。
幸いなことがありました。昨年と同じ乗務員さんで、運転手の沢さんには、不安や心配を取り除いていただき、ガイドの関さんには流暢なガイド振りで、車窓の風景に深みと味わいが盛られました。新人社員笑顔の原さんは、職員たちに溶け込んで、さりげない気遣いから道中進行の潤滑油になっていました。
2日目の午後、最後の訪問地は、伊香保の竹下夢二美術館。落葉の静かな林の中に建つ大正ロマンの建物は、何回行っても心を落ち付かせてくれます。車窓に見えては消えていた谷川と武尊の雪に目を奪われた後、美術館のコースは、自然と人の営みとの組み合わせで、心が洗われ、癒されるものでした。
全員が案内された部屋では、3台のオルゴールから、小学生時代の懐かしい曲が流され、女性が弾くピアノからは、誰もが覚えのある懐かしい曲が、疲れ顔の職員の頭上を流れていました。宵待草の作詞者である 夢二に因んだ洒落た演出です。
夢二の作品は何回か見ているので私は一人、建物のつくりや、雰囲気のあり様などを見ていました。落ち付いてロマンを感じさせるこういう空間が、市原市に欲しいと、西山に頭が向きます。安らぎと夢、刺激と創造、西山庭園の絵本美術館は、忙しい時代の流れの中で、ゆったりした時間を保てるところになるでしょう。クレイン、トータス、げんき館ともつながって、鶴舞が安心と生き甲斐のあるところになれるはずです。
魂が帰るところ
人生の旅も何時かは終りを迎えます。人が最期に帰るところは別々です。生まれ故郷も嫁いだ先も、情熱を注いだところも、愛を授かったところも、それぞれ帰るところになるでしょう。それらのところはすべて、魂が落ち着けるところです。
私は市原市のふる里づくりを続けています。「ふる里は魂が帰れるところ」。広井良典先生の「ケアを問いなおす」(ちくま新書)の中でこの言葉に出逢いました。以後先生とのお付合いが続いており、多くのことを学ばせていただいてます。
鮭や海亀が、太平洋の長旅を終えて、生まれた川や砂丘に戻ってくるように、いずれの日にか市原市に戻ってきてくれる、そういうふる里――魂が帰れるところにしていきたいのです。ふる里づくりは長期にわたるまちづくりです。(2月号につづけます)
鶴心会理事長 三好 敏弘





